NHKオンデマンドは“放送”ではない。

昨日1日、日本放送協会(NHK)はNHKオンデマンド(NOD)というサービスを開始しました。
Twitterにも書きましたが、AV Watchでレビュー記事がありましたので、詳しくはそっち見てください。
要約すると、ポイントとしてはこんな感じ↓

  • 有料のVOD(ビデオ・オンデマンド)サービス。ID登録にはメールアドレス、クレジットカードまたはYahoo!ウォレットの登録が必要。
  • 次の2つのカテゴリがある。
    • 「見逃し番組」:NHKの地上波/BS合わせて1日10~15番組を、放送後から約1週間、購入後24時間まで視聴できる
    • 「特選ライブラリー」:1,200本以上のタイトルがあり、購入後72時間まで再生可能
  • 番組1本あたり105~315円。「見逃し番組」の「見放題パック」は月額1,470円
  • 視聴環境は、PCだとWindows XP/VistaのInternet Explorer(IE)のみ。配信形式がWindows Media Videoなので、Windows Media Player(WMP)が必須(ちなみに私のポンコツWindowsはWMPを消してしまったので見れないw)。また、J:COM、アクトビラ、ひかりTVに対応している。
  • ビットレートは756kbpsと1.5Mbpsの2種類から選べる。1.5Mbpsなら結構な画質で見れるとのこと。
  • PC向けとアクトビラなどのTV向けではIDを共有できない(=両方「見放題パック」にするには月額2,940円必要)。
  • TV放送で徴収している受信料とは、別決済。
    (追記)東京新聞 2008.12.2付朝刊「『放送—通信』融合に一歩 NHKオンデマンド スタート」という記事より引用。

    NHKによる番組のネット配信は、今年四月施行の改正放送法で可能になった。受信料を使ったネットサービスは、ニュースや番組PRに限られるため、NODは有料の独立採算で受信料とは別会計とされた。

    番組のネット配信は民放キー局が先行していたが、配信設備や権利処理の費用がネックになり、「ビジネスとしてはなかなか難しい」(民放キー局幹 部)のが現状。NHKは、主要な権利者団体と配信に関する基本合意にこぎ着け、配信設備は民間のシステムを利用することで、初期投資を最小限に抑えられた という。

    NHKは、三年目の二〇一〇年度に会員数約三十万人、売上高約四十億円で単年度黒字を見込んでいる。一三年度には累積損失の解消を目指し、赤字の場合は撤退を含め事業を見直すという歯止めをかけた。

………さぁ、どこから突っ込もうかw

視点1:ウェブサービスとしてどうか

まぁようやく日本でも始まった、という感覚が近いですかね。
ゃ、ホント言えば第二日本テレビとかの民放が先行しているんですが。

今までNHKで放送され、人気のあった番組を手軽に見れるようにするという発想はいいと思う。
NHKには豊富な番組ライブラリーがある。
それに関しては間違いなく業界一だし、今見ても名作と言える番組も多い。
YouTubeなどで番組を配信しているテレビ局もあるが、
番組の量と質という点で、NHKは完全に他を圧倒している。
これを活かせれば確かに強みになるだろう。

ただ、それはあくまでコンテンツが優れているというだけだ。
優れたコンテンツを持って(作って)いれば、ユーザーは自然とそれを見てくれる―――――。
そんな夢物語が通用する時代ではなくなったことは、
Media Evolution.」で何度も触れたとおりだ。

たしかにNODのインターフェイスはシンプルで分かりやすいし、
誰でも使いやすいよう、設計されていると思う。
先ほど初めて使ってみたけれど、少なくとも私は何のストレスもなく利用できた。
……が、実際視聴しようとすると、当然のことながら環境制限で試聴さえできない。
当たり前だ。私のメインPCは(今は修理中の)MacBookだし、
私のWindows PCはWMPを消してしまった上に、Google Chromeをメインに使っているのだから。

今更言うまでもないことだが、
YouTubeニコニコ動画がこれほど流行った要因の1つとして、
「環境に(ほとんど)左右されずに視聴できる」という点が挙げられる。
これらの動画サービスは、その表示・再生にFlash Playerを採用しており、
現行の最新ウェブブラウザの機能を考えれば、再生できないということは、まずありえない

確かに、大多数のユーザーはWindowsのIEを利用しているのだから、再生に支障はないだろう。
しかし、その“大多数のユーザー”というのは、いわゆるライトユーザーだ。
1日に数時間しかネットを利用しないライトユーザーが、
無料のYouTubeニコニコ動画ならまだしも、
有料で、(上記2つに比べれば)コンテンツも少ないサービスを日常的に利用するだろうか?
逆に私のようなヘビーユーザーはどうだろう?
私のようにFirefoxやSafari、Google Chromeを使っている人たちも多いだろう。
正確な統計はいま手元にないが、1年ほど前の開発者向けの調査の結果、
IEとFirefoxのシェアが互角だった、という記事を見かけたことがある。
むしろWeb開発者の声としてよく聞くのが「IEは使えない」という意見であり、
彼らが時たまIEを起動するのは、
作ったページがIEで動作不良を起こしていないか確認するためだけだ。
ウェブ開発をかじっている私自身も、同じように思う。
そんな私達が、普段使わないIEをわざわざ起動させてまで、見ようと思うだろうか?

つまり、ウェブサービスとして体は整っているが、
実際ユーザーが寄り付くかは甚だ疑問なのだ。

視点2:これは“放送”なのか

視点1で言われていることは、既にIT関係サイトでは語り尽くされており、
特に目新しい話というわけではない。
なので今度は、放送に携わったことのある者としての疑問と意見を書きたい。

まず端的に言って、これは放送といえるのだろうか?

おそらく、皆さんこう答えられるのだろう。

「放送ってテレビやラジオのことだろ?
インターネットなんだし、放送じゃないのは当たり前だろJK」

いや、それは当たり前ではないのだ。
ラジオもテレビも、電波を受信して、映像を映し出したり、音を出したりする受信機……
……つまりまぁ、極端に言ってしまえば、ただの箱だ。
パソコンも(中で色々計算しているとはいえ)要はただの箱。…そう、同じく箱なのだ。
これらの箱に共通している点は、線に繋いだり、電波を拾えば、
情報の(送)受信が可能、ということだ。

そして「放送」というのは、三省堂提供のInfoseekマルチ辞書によると、

多数の人に同時に聴取されることを目的として、電波によって音声または音声と映像を受信装置に送ること。一定区域内の人々に対して有線で行われるものについてもいう

という意味なのだそうだ(強調は著者によるもの)。
つまり“放送”というのは、受信機能つきの箱に情報を送信すること、といえる。
……これが現在インターネットで行われていることと何が違うのだろう? いや、同じだ。(反語)

そう考えていくと、NODが日本“放送”協会の運営するウェブサービスということに、
若干の違和感を覚えないだろうか? ―――少なくとも私は覚える。

「私達のデータベースにある番組から、人気の高かったものをチョイスしました。ウェブ上で再生できるようにしましたので、皆さんぜひご覧ください。」

例えばNHKがこう言うなら納得だ。
変わり者の私も「つまりは再放送と同じね。ぉk、把握」となるだろう。
しかし彼らが言ったのはなんだ?

「データベースにあった人気番組を販売します。72時間再生可能ですのでどうぞお楽しみください。」

いや待て落ち着け。―――それなんてツ○ヤ?
ちょっと小銭払って、3日間だけ借りられるってことですか。で、延長はなし、と。
どんだけサービスの悪いレンタルビデオショップなんだという。

そう、彼らが始めたのは放送事業ではありません。
ウェブ上のレンタルビデオショップです。
でも名前は日本放送協会です。
………業種ずれてるコト始めたけど、本業が不調なのに事業展開ですか?

本当のことを言えば、民放がどんどんネットに参入していく中、
(いろいろ規制があって)参入できていなかったNHKには、
一発逆転、かつ、今後ネット上での“放送”の規範となるようなサービスを期待していた。
私もよく聴くTBSラジオのポッドキャストだったり、あるいは第2日本テレビだったり、
日本のウェブ放送は正直いまいちノリきれていなかった。
というかテレビジョンとラジオという昔ながらの「箱」に固執して、
新しく出てきた「箱」への対応がおざなりになっていた。

「放送用の電波だろうが、インターネット上だろうが、
同じように広く、素早く、質の高い情報を“放送”してやんぜ」

それぐらいの気概を行動で示して欲しかった。
だって昔から一番見ていた、みんなの“公共放送”だぜ?
だからNHKがYouTubeでキャンペーンを始めた際は、
「遂に大御所キタ━━(゚∀゚)━━!!」 と独り祭状態だった。相当に期待していたと思う。
それが………ツタ○もどきですか……。

断言しよう。NHKオンデマンドは“放送”ではない。

もう一歩踏み込んで言えば、
放送業者――それも仮にも日本の放送の鑑であるべき存在――が、
自らの全うすべき職務を脇において、他ジャンルの業務を行うなど言語道断だ。
ベースとなるものが間違っている。
“放送”業とは、番組を作ることが業務なのではない。
作った番組を誰かに届けることが業務なのだ。
なんのために番組を作るのか? できたモノを何のために保存するのか?

―――全て、いつか“放送”して人々に知らしめるためである。

そんな、最も基本的で、最も重要なことを失念したサービスには何の価値もない。
“放送”のことをきちんと考えているのなら、即刻停止すべきだ。
その上で、インターネット放送の規範となるモノを作り出して欲しい。
“放送”の役割を全うしているのなら、有料だろうが文句は言うまい。
……だってほら、公共放送だし。

*注釈

  • 「インターネットなんてやめてテレビに注力しろよ」的な意見をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、現状のままインターネットが普及していくと、テレビ業界は“放送”の役割もマスメディアの役割も果たせなくなります。なぜなら、「情報源はGoogleニュースだろJK。テレビとか見ねーwww」とかいう(私みたいな)ネット依存症患者がどんどん増えてきているからです。
  • 「お前、なんか概念からしてひん曲がってるけど?独自解釈の妄想乙ww」とか思う方、その通りで俺涙目になっちゃうから自重してくれると助かる。
  • ですが、コメントとかメールとかは待ってます。

投稿者:

Kairi

Love video, music, drinking, and web.

“NHKオンデマンドは“放送”ではない。” への2件のフィードバック

  1. んじゃ、コンテンツを売るという形はありなのか?
    つーか、受信料でつくった番組をまた金払って見なきゃいけないのもいかががなものかな?

  2. そこはアリなんじゃないかと。
    だってホラ、善良な市民が支払っている受信料は『受信』料であって、制作されたコンテンツに対して支払われたものではないもの。
    肝心なことは、「NHKを受信できること」なんだよ。古い法律だね。

    だから、制作・著作がNHKである限り、それに対してはこちらもペイを行なわなくてはならない。
    まぁ民放も含めて、普段(コンテンツに対しては)なんの料金も払う必要がないものに、改めてお金を払わなきゃいけないというのは違和感を感じるよね。それは確かだ。
    でも普段の放送がいわゆるタイムサービス的な「限定配信」と考えれば、それを改めてDVDとして買う時に支払いが発生するのは当然でしょ?

    ただ、コンテンツに対する権利とその運用の話にも問題があって、それがいわゆる制作サイドからの搾取の構造を作りだしたり、あるいはネットを使ったコンテンツ配信への切欠になるんだけど、それはぜひ別のエントリーで。

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